マタイ受難曲

ハリケーンカトリーナニューオーリンズにおける被害のニュースを見たときに僕が聴かずにいられなかったのが、ポール・サイモンの「American Tune」であると、ここに書いた。
アメリカ第二国歌とも言われるというこの曲は、70年代の混迷のニクソン政権下のアメリカでポール・サイモンが書き下ろした曲で、当時のアメリカを象徴する最強のヘタレな内容の歌詞になっているヘタレ曲である。


ここで歌われる一人称の「私」は過ちを犯し、混乱し、途方にくれ、時に濫用されている。家から遠く離れ、明るい自分を装ってもそういう自分にはなれない自分がいる。夢は打ち砕かれ、気の置ける友人もおらず、挫折し、自分の進む道において一体どうなっているのだろうと、自問自答せずにはいられない「私」である。


その一人称の「私」とはつまり「アメリカ合衆国」そのものを現していることは最後のパースで明かされる。
我々は「メイフラワー」という船でやって来て月まで船で行く。
そして混迷極まる時代に生きながら、それでも「American Tune」を歌う。
そして永遠に讃え続けられる事無くそれでも生きていかなくてはいけない。


この曲は第二国歌といわれながらもアメリカ受難の歌である。
そしてこの第一、第二と最終パースのメロディーラインが、バッハの「マタイ受難曲」の第十七コラールからほとんどそのまま取られていることは、結構有名な話しなようだ。


マタイ受難曲」はバッハの有名な、キリストの受難から死までを描いた作品でその第十七コラールは「私はここであなたのそばにとどまる」というコラールである。


今はアメリカにとって70年代に次ぐ受難の時代なのだろうと思う。
ニューヨークテロからイラク戦争、今回の天災とアメリカは混迷している。


僕は「American Tune」を聴いたら今度は「マタイ受難曲」が聴きたくなった。
ネットを探すと、MIDI音源を公開している人がいるのね。
不思議なことにこれを流すと、うちのアレックス(犬)が暴れているのがおさまるんだな、なぜか。
バッハの曲って犬を沈静させる効果があるようです。